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森見登美彦氏が帯コメントを書いていて、
奈良に埋もれていた驚愕の才能が衝撃デビューというふれこみなのだが。
そんな情報を森見登美彦氏本人のツイッターのリツイートから知るということなので。
ははぁん、これは森見登美彦の変名で前野ひろみちと言うことでやっておるのだな?
ご本人、昨今は結婚されて京都を離れ嫁の実家である奈良に越したというし。
文章もまさにそれっぽい。
■というか「前野ひろみち」なんてペンネームも
前に在る広い道、「ならやま大通り」やら
奈良時代にあった平城京の羅生門から朱雀門への
「朱雀大路」なる大きな広い道から、
前野ひろみちである!
なんて言う
くだらない名付けであろうことは想像に難くない。
■さておき。
が、そんなことはさておきなのだ。
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この小説は傑作である。
傑作だったのだ!
怒濤の如くパワフルで、
溢れんばかりのみずみずしさ。
甘美で、矮小で、阿呆で、優しい。
なんということだ。
とても面白い!
ズルいぞ、馬鹿!
■これは四編の短編からなる短編集である。
そしてそのことごとくが
奈良を舞台にした話だ。
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「佐伯さんと男子たち1993」
ボンクラ中学生男子3人組と
不思議な雰囲気を持つ同級生女子佐伯さん
あと草原に鹿。
ひねくれていたが今思うと
あれこそが
青春のきらめきだったのだ。
みたいな、美しく阿呆な想い出。
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「ランボー怒りの改新」
戦地からやっとの思いで故郷の奈良に帰って来た
ランボー。
何を言っているのだ。
奈良では
蘇我入鹿と
中大兄皇子、
中臣鎌足らの政権争いのまっただ中だった!
大化の改新は成し得るのか!?
戦争などくだらないことはやめろ!
ランボーの怒りは頂点に達するのだ!
だからオマエは何を言っているのだ!?
そんな話ー。
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「ナラビアン・ナイト」
あぁ、してやられたー!
アラビアンナイト
千一夜物語。
それは王様に寝物語としてお伽の女が面白い話を話して聞かせる。
しかし王は狂っていて気に食わぬと切って殺す。
なので女は物語を次々と繋げてゆくのだ。
物語の中の人物が物語を話出す。
そしてその物語の中の人物がまた物語を紡ぎ出す。
そんな
入れ子構造がアラビアンナイトなのだが。
それを巧いこと現代の物語でやられたー!
いつかやろうと思っていたのにー。
というかこうやれば良いのかー。
そんな感じで
とても見事な大傑作でありますよ〜。
見事なり〜。
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「満月と近鉄」
そして最後のこの単行本での描き下しの一編なのだが。
主人公は「前野弘通」なる18歳の男だ。
こいつが小説家になろうと奈良の端でうんうんと唸り。
その山奥で
不思議な乙女と出会うと言う。
ここにまた先ほどのアラビアンナイト方式の入れ子構造が、
この書籍内でカタカタと音を立てて積み上がってゆくのであるよ!
あぁ!もう!
そしてこの弘通くんには京都の大学に進学した友人が居るとかね!
あぁ!もう!
さておきながら、
この物語はとても純真で透明で美しい輝きを放つ。
青年のよくある苦悩と、
それを乗り越えるパワーと、
その瞬間にしか知り得ない純真な美しさがあった。
それをくるりと書き留められているのだから
溜まったものではない!
■あぁ、もうなんだこれ!
傑作じゃないか!
としか言いようがない!
もう、本当にズルいぞ!
あと、解説の仁木英之も合わせて入れ子構造になっているのが、本当にズルイ!^^
そこまでが作品。