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2014年10月28日火曜日

【サンプル】マホロミ・マホと三人の怪物【冒頭&一章】


↓以下サンプルですよ。

マホロミ・マホと三人の怪物
                      作・内海まりお

 人類が初めて月に降り立ち。世界中の人達が大興奮した。
 そしてそのときに持ち帰った月の石を見るために、私達は大きな行列を作ってまで足を運んだ。
 たぶんそれは、珍しい物が見たかったのではない。
 なぜだか、とても懐かしかったからだ。


■奇跡のはじまり
 
 ごごう。ごごう、ごう。
 奇跡と言うものが、とても確率が低いものである。ということならば、私は奇跡をいともたやすく信じる事ができる。そういうことを一度、私は実際に体験していたからだ。
 例えば風の強い午後、私は楽譜のたばをかかえて家路を急いでいたのだが、突風にあおられ、数十枚の楽譜が空高く、あっと言う間に舞い上がってしまった。
 私はなす術もなく、どうすればいいのかもわからず。ふわふわと浮いている楽譜をぼんやりと見つめるだけだった。
 
「あぁ、どうすればよいのかしら?」

 そう思っていると。ふいに風はピタリとやんで、バラバラになった楽譜はゆっくりと落ちてきた。それが驚く事に、一枚、二枚、三枚と順番に、私の手の中に落ちて来たのだ。
 一枚ずつ順序良く、きっちりぴったり私の元へ。それはとても不思議なことだったが、私はまぁそういうこともあるのだろうと何の疑いもの無く、ごく自然にそう思うことができた。
 私は当たり前のように「ちょっと運が良いのかも?」程度の認識で。
 だから、奇跡と言うものが、とても確率が低いものである。ということならば、私は奇跡をいともたやすく信じる事ができるのだ。
 

 ごごう。ごごう、ごう。

 そのときも今みたいに台風がやってきていたのだった。

 ごごごご、ごごう。ごごう、ごう。

 それは今まで体験した事もないような、巨大で強く恐ろしい嵐とたつまきを抱えた台風。
 そのころはまだ小さな女の子であったマホロミ・マホはたいそうおびえてしまっていたのだ。
 草原の上に立つ大きな一軒家にはマホとおじいさんとおばあさんと猫のアングと暮らしていた。

「マホ!早く地下室に隠れなさい!」

 おじいさんの言葉の先に向かおうとするが、はっと気が付く。
 アング、アングがいないわ。

「マホ早く!」

 おばあさんが地下室の扉を開けて待っています。

「アングがいないの!」

 大慌てで探します。あ、ベットの下に真っ黒のふわふわがぷるぷると震えていました!

「アング!」
「ニャー!」

 マホがひっしと猫のアングを抱きしめると同時に。

 ごごう、ごう!

 ね、だから私はどんな奇跡だっていともたやすく信じることができるのだ。台風の、嵐の、とても強いたつまきによって地下室を残して、おウチの部分だけがくるくると空に舞い上がるなんてことも。

 マホはいそいで外に逃げ出そうとしましたが、家はもうすでにふわふわと、もう町も畑も野原も、ぐんぐん小さくなってしまっていたのです。

 「もう、どうしようもないよね」

 あまりの出来事にマホは逆に落ち着いたりしたのです。そうです。どうにもできないことだってたくさんあります。

「だよねー」

 でも、マホ。アングはどこにいったのかしら?

「あ!」

 部屋を見回しますがどこにもいません。となりの部屋も、もう1つとなりの部屋も誰もいません。窓の外には木や草やいろんなものが舞い上がっています。空を飛ぶ牛が「もー」と鳴きます。そして猫が「にゃー」と鳴きます。にゃー?
 
「にゃー、ここだよ!」
「え?どこ?」
「下の穴さ」

 元の部屋に戻りますがやっぱりアングはいません。

「ここだよー助けてー」

 あ、地下室の穴があった所から声が聞こえます。そして黒色のしっぽだけがそこからバタバタと動いていました。

「アング!」

 穴から外に出ていたアングは落ちてしまうところでしたが、嵐の強い風が下からごごうと押し付けるので、家の底にぴったりとくっついて、そしてまったく動けなくなっていたのでした。

「痛い!しっぽを引っ張らないで!」
「あ、ごめん」
「あぁ!でも離さないで!」
「あ、ごめん」

 ほうほうのていで、なんとかアングを助けたマホはほっとしました。

「ねぇ、アングあなたしゃべれたのね」
「いや、ついさっきしゃべれるようになったばかりさ。あまりにビックリしたからしゃべれるようになったのかもね」
「ふふふ」
「なんだい?」
「ネコがしゃべって驚くはずなのに、驚く事が多過ぎてわけがわからないわ」
「そりゃ、こっちもさマホ」
「だけど、どこまで飛ばされて行くのかしら?」
「というか、落ちたらどうなっちゃうの?」
「怖い!」
「怖い!」

 二人は抱き合って怖がりましたが、それ以上にとても疲れてしまっていました。外は嵐で家は空に浮いているのだけど。部屋の中はしごく普通のいつも部屋なので、マホはベットの上にはいあがり、横になりました。

「僕も」

 アングもびょこんとベットにとびあがり。マホとならんで眠りました。

 あっというまに、疲労のあまり泥のように、二人はすやりと眠ります。
 家はかわらずたつまきにふきあげられたまま、ゆらゆら、ふわふわ、ごごう、ごう。
 空高く、どこぞへと、ふきとばされてゆきます。
 



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