■なんだかやたら回りで評判が良い。
それも作家さんからの評判がもはや異常なほど良い。
うーんでもあれでしょ?
細やかな描写とか情緒的な心理描写が巧いっていう
あの感じなんでしょ?
とまぁあまり期待せずに行ったのだが。
■冒頭の5分くらいで泣いてしまった。
なんのことはない、なにも物語は始まってないシーンで
嬉しくなってしまった。
日常なのだ。
ものすごく精密に日常がかかれている。
逆に言えば全然ドラマチックじゃない。
当たり前だ、日常はドラマチックではないのだもの。
■そこからもいろんなところで
「映画なら、ドラマなら、こうなるはず」
と思ったところがことごとく
「そうじゃなかった」
そして良く考えてみれば映画やドラマのように
「そうなる」のがおかしいのだ。
そうなって欲しいというのは観客の希望だ。
現実には起こっていないことを起こって欲しいという希望で、
それは現実じゃないのだ。
■この映画はただただ現実を描き続ける。
現実というと重く辛く苦しい、
なんて思うかもしれないが
それこそがドラマに取り憑かれているダメな考え方だ。
人生は2時間の映画じゃないのだ。
何十年も粛々と続いている、
それがずっとずーーっと辛く苦しいはずはない。
■なのでこの映画、戦前から戦後までを描くのだけど
とても楽しいシーンが多い
こちらもつられて笑ってしまうような場面があってニッコリする。
いろいろあるけどまぁ良かったよね。
そんな想いがゆたゆたと、たゆたう。
■主人公のすずさんはおっとりふわふわした性格なのだけど、
よくある漫画的のんびりキャラとは違っていた。
終戦を知らせる天皇陛下の玉音放送を聞いて
家族の皆は
「話長かったね」
「結局負けたってこと?」
「やっと終わった〜」
的なことを話す中
すずさんだけが声を荒げて怒る。
「あんたらは何が何でも勝つって言うたがろうが!」
■そういえばそうだ。
このシーンでは
ホッとする者や
悲しむ者の姿を想像してしまいがちだけど、
怒ってしかるべきなんだよな。
でなければ、
彼らが命をとしてやってきたことが全て無駄になるということだもの。
それをあっさり負けたってどういうことだよ!
むしろ怒るべきだ。
でも観客の私達はそんなことをすっかり忘れていた。
戦争に対して怒る人は多いけれども
戦争に何も成果がなかった、ということに対して怒る人は少ない。
しかしそこからこそ戦争はギャンブルで必要のないものだ、という結論に届く。
■なんか不思議なのだ。
私達が映画やドラマで見ている世界は極端なのだ。
極端な性格の人達が極端な事件に巻き込まれて
極端な幸不幸を味合う。
濃い味付けの物語。
2時間でパッと気持ちよくなるにはそうした方がよい。
だけど、そうなるほどに現実とは離れてゆく。
■「この世界の片隅に」は現実よりも現実な感じがしてしまった。
すずさんが体験した数十年をその目でその手で足で体験してしまった感じだ。
あぁ、なんかとんでもないものを観てしまったぞ!
どうしてくれよう、どうしてくれよう!
いや、ほんとう。
ありがとうございました!
■そういえば、原作は読んでないのでアレですが
あるべき大きなエピソードがひとつカットされてますよね。
最後まで来て、あぁ、そうか、たぶんそうなのだろう。
と分かるのだけど描かれてはいない。
最後唐突に別の子供が出て来て
あぁ、そうか。そうだったのだな。
と分かる。
■あと、途中妖怪の様な物の怪のような人が出てくるのだけど
それはぼんやりしたすずさんが見た幻影なのかな?
って感じで描かれている。
だけど妖怪などはいなくて、
だがしかし彼らは本当に存在した。
ってところがうなるよねー。
ニヤニヤしちゃう!
あぁ、なんて世界は素晴らしい!
■そんでエンドロールで右手がひらひらとさよならをするのズルイ!^^
上映館は割と少なめなので調べてから行くとよいよ!