ふらりと入った店はカレー屋だった。
「これはなに?」
「カレーです」
「お皿しかないんだけど?」
「カレーです」
そうですね。説明が必要です。
私は全ての人を幸せにしたい。
それは不幸な人が一人もいないということです。
私の料理で不愉快になる方がいてはいけない。
とあるお客様が言いました。
「私はタマネギが嫌いです」
「そうですか、ではカレーからタマネギを抜きましょう」
別のお客様が言いました。
「僕はニンジンが苦手だ」
「そうですか、ではニンジンを入れないでおきましょう」
また違うお客様が言いました。
「俺はジャガイモがどうしてもダメなんだ」
「そうですか、ではジャガイモを取り除きましょう」
「米は太るから嫌だ」
「そうですか」
「カレーのルーって油の塊だよね」
「そうですね」
「肉を食べ過ぎると良くない」
「そうなのですか」
というわけで、出来たのがこの究極のカレー。
誰の気分も害さない幸福のカレーなのです。
「君は馬鹿か」
「違いますよ」
「私はとても不愉快だ、幸せではない」
「では何を取り除けばよろしいのでしょう」
「何も取り除かなくていい、普通のカレーを食わせろ」
「普通のカレーは嫌いな人がいます」
「私は好きだ」
「でも嫌いな人がいるものは不幸の始まりです、お出しできません」
「わかった」
「何がですか?」
「取り除くものだ」
「ありがとうございます!それは何なのでございましょう!いますぐ取り除いてみせましょう」
「君だ」
「私ですか?」
「そうだ、君が居るから私は理不尽な不幸にあっている」
「ありがとうございます!これで全ての人を幸せにできる!」
そういうと、男は私の前からスッと消えた。
後日、その店に行くと閉店したのか、
建物も取り壊され更地になっていた。
そこには何も無いが。
誰も不幸にしない究極のカレーがそこにはあるのだろう。
私はごめんだが。
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