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2015年6月8日月曜日

「完璧な幸せ」ショートショート

ふらりと入った店はカレー屋だった。

「これはなに?」
「カレーです」
「お皿しかないんだけど?」
「カレーです」

そうですね。説明が必要です。
私は全ての人を幸せにしたい。
それは不幸な人が一人もいないということです。
私の料理で不愉快になる方がいてはいけない。

とあるお客様が言いました。
「私はタマネギが嫌いです」
「そうですか、ではカレーからタマネギを抜きましょう」

別のお客様が言いました。
「僕はニンジンが苦手だ」
「そうですか、ではニンジンを入れないでおきましょう」

また違うお客様が言いました。
「俺はジャガイモがどうしてもダメなんだ」
「そうですか、ではジャガイモを取り除きましょう」

「米は太るから嫌だ」
「そうですか」

「カレーのルーって油の塊だよね」
「そうですね」

「肉を食べ過ぎると良くない」
「そうなのですか」

というわけで、出来たのがこの究極のカレー。
誰の気分も害さない幸福のカレーなのです。

「君は馬鹿か」
「違いますよ」
「私はとても不愉快だ、幸せではない」
「では何を取り除けばよろしいのでしょう」
「何も取り除かなくていい、普通のカレーを食わせろ」
「普通のカレーは嫌いな人がいます」
「私は好きだ」
「でも嫌いな人がいるものは不幸の始まりです、お出しできません」

「わかった」
「何がですか?」
「取り除くものだ」
「ありがとうございます!それは何なのでございましょう!いますぐ取り除いてみせましょう」

「君だ」
「私ですか?」

「そうだ、君が居るから私は理不尽な不幸にあっている」
「ありがとうございます!これで全ての人を幸せにできる!」

そういうと、男は私の前からスッと消えた。

後日、その店に行くと閉店したのか、
建物も取り壊され更地になっていた。

そこには何も無いが。
誰も不幸にしない究極のカレーがそこにはあるのだろう。

私はごめんだが。

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