「最近の歌謡曲の歌詞は風景描写無いように感じる」
「そうか?」
「まぁ、なんとなくなくもない感じでもするけど。もう少し詳しく言うと物語がない」
「え?そうかな?なんか感動する感じのあるじゃん?」
「そうなんだよ、そこもなんとなくあってラストシーンだけある感じ」
「あー、うーん、そうかなー?じゃあ昔の曲はあるっていうの?」
「あると言うか、一曲でテレビドラマとか映画みたいな曲が多かったイメージ」
「たとえば?」
「雨は夜更け過ぎに雪へと変わるだろう…とか」
「クリスマスじゃーん!」
「だろ?アスファルトタイヤを切り付けながら暗闇走り抜ける」
「都会の夜をスポーツカーで恋人のマンションに乗り付ける感じじゃーん」
「な?夏が過ぎ風あざみ誰の憧れに彷徨う青空に残された私の心は夏模様」
「少年時代の夏の想い出じゃーーん」
「だろ?」
「ドラマチックだな昔の曲」
「いや、現代の曲もドラマチックではあるんだよ」
「あ、そうか」
「でも具体的な風景や物語がなくてドラマチックな感情だけがそこにある」
「あー、なるほど。そんな感じだ。感動はするものな」
「そう感動するのは一緒なのね。でも現代の曲は具体的なイメージがない」
「それはどう言うことなんだ?」
「感情移入しやすいと言うことなんだよ」
「あー、そうか。曲のぼんやりしたイメージの中に自分の顔をハメ込める感じね」
「そう!だからイメージがぼんやりしている方が誰でもその曲に感情移入しやすい」
「んー、ならば昔の曲は感情移入しにくかったってこと?」
「いや、それが昔の人はそれで感情移入していたのよ。自分と全然違う美男美女の都会のキラキラ恋愛モノの曲でもたやすく感情移入していた」
「えー?なんでよ?自分と全然違う人に感情移入できないでしょ?」
「違うんだよ。その時代には夢があった。自分もいつかは彼らみたいにキラキラ出来るはずだと思える将来に向かう希望があった」
「なんだよ、現代の若者が希望がないみたいに言うなよ」
「…あるのかい?」
「…。」
「つまり、昔は自分と違うキャラクターでもなりきれる、王子様にでもシンデレラにでもなれた」
「なれるわけねぇー」
「そう、現代の若者は王子様にもシンデレラにもなれないと気付いている」
「絶望的観測だな」
「絶望している。だけどシンデレラになりたくないわけじゃない」
「そりゃあ、ね」
「なので今の自分そのままで王子様に迎えに来てほしい」
「ご都合主事だね」
「ありのままに、だよ」
「レリゴーっスな」
「魔法使いの力でドレスもガラスの靴もカボチャの馬車も出てこない。魔法使いなんていない」
「悲しい」
「なのでもはや感情だけがあればいい、幸せな気持ちになれる曲さえあればそれで幸せだ」
「そうか、私はもはや特別な何かになる必要もなく」
「そう、自分だけの特別な物語を手に入れるため足掻くことも出来ず」
「幸せな感情だけ」
「幸福な想い出だけが」
「あれば良い」
「そうしてそれは脳に刺激を与えるだけで簡単に摂取出来る」
「世の中に希望がなく、人生の全てに絶望しようとも」
「素晴らしい音楽を聞けば」
「私は満たされ、涙する」
「…。」
「…。」
「いや、怖いわ」
「なー」
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極楽京都日記: 【サンプル】マホロミ・マホと三人の怪物【冒頭&一章】
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