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2021年7月25日日曜日

【小説感想】「流れよわが涙、と孔明は言った」三方行成



■「泣いて馬謖を切る」


かの諸葛孔明が親愛なる部下馬謖の失態に罰を与えた。


命令に反き、規律を乱し、自軍に損害を与えたものに対しては

誰の彼の差別なく、きっちりと罰を与えるということ。

しかし、これは大いなる国の勝利のためであり。

孔明個人としては腹心の部下の首を落とすことに

涙を禁じ得ないのである。


そう、そういった古事の言葉である。


■孔明は涙を流した。

しかし、馬謖の首は切れなかったのである。


…え?


そう!

馬謖の首は切れなかったのだ。


■処刑人が切れ味鋭いどっしりとした斧を馬謖の首に振り下ろす!

だが切れないのだ。

馬謖の首はまるで岩の如く、硬く強い。

処刑人は何度も何度も斧を振るう。

刃は欠け、処刑人の腕は痺れ、汗だくになり体力の限りを尽くすが

馬謖の首は切れない。


■だからと言って馬謖の息は既に絶えている。

馬謖は既に死んでいるのだ。


だが、馬謖の首は切れぬ!

お前は一体なんなのだ!

You バショック!

愛で空が落ちてくるのか!

俺の鼓動早くなるのか!

熱い心鎖で繋いでも、今は無駄なのか!


■孔明は馬謖の首を切りたいわけではない。

しかし軍の総大将としては

違反者をきっちりと処分しなければ格好がつかないのである。


こう、見せしめをすることで

軍の規律を保たせる。

もはや親友とも言える馬謖の首を切ることで、

それを成し得るのだ。

だからその苦渋の決断に孔明は涙を流す。


だが、馬謖の首は切れない!


■しかし、馬謖の首は切らねばならぬ!

孔明はその明晰なる頭脳を大いに発揮し、

馬謖の首を切ることのみに没頭していくことになる!


古今東西あらゆる方法で、

考えうる全ての方法で、

馬謖の首を切ろうと試みる。


だが、馬謖の首は切れない!


■もーやってらんねー。

孔明はほとほとに疲れ果てた。

しかしその先に光明が見える。

研鑽を積み上げた者にだけが辿り着ける、

宇宙の果て。


そこで孔明は気付くのだ。


この世のことわりに。

世界の真実に。

宇宙の真理に。


なんてこと、宇宙は広大だわ…。


■…とまぁそんな感じのテンションで続く文章だったので

とても楽しかったですよ。

(以上は私が要約して適当に書いた文章です)



しかもこの単行本は中編集で5つの物語が収録されています。


それがそれぞれ別のテイストで

SF作家としての大いなる可能性を垣間見られて

とてもワクワクいたしましたですよ。



■表題の

●「流れよわが涙、と孔明は言った」

上記の通り暴走機関列車のような自由方面な言葉の奔流。


●「折り紙食堂」

これはうって変わって、ホラーミステリーなのか喪黒福造的な

たまたま入った食堂が折り紙しか置いていないという奇妙な物語。


●「走れメデス」

あ、これは孔明のやつに近い暴走疾走小説。

メデスはアルキメデスです。

アルキメデスが思考の地平の彼方にまで連れて行ってくれます。


●「闇」

シリアスSFホラー。昼がなくなり闇が支配してもはや数十年経った世界。

もはや街灯の明かりの下だけが人間の生存できるスペースなのだ。

灯りの外の闇に手を入れると引き摺り込まれる。


●「竜とダイヤモンド」

ドラゴンカーセックスというとんでもないお題をもとに作られた話なので

どうなのか?と思ったがこれが意外と良かった。

車と蒸気機関車が出てきた頃のイギリス貴族的な感じと

アメリカでアルカポネが闊歩していたあの時代的な感じで

少年漫画のようなすがすがしさのある作品だった。


■そんな感じで作者三方行成のこれからに大いに期待するものである。

三方四方の成り行きに。









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