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2025年8月16日土曜日

【短編小説】蓬莱船岡山城


  

 二千三十四年京都の八十%は駐車場となった。

残りの二十%は観光地である。


 オーバーツーリズム、過度な観光客の増加。

それと市政の失策により住民の数は激減、

どんどんと住民にとっては住みにくい町となった。

まぁこうなるのは時間の問題であり、

いつかはこうなるだろうと思ってはいたものの、

いささか思ったより早く、

この時はやってきたのである。


 見渡す限りの駐車場だ。

もちろんそれは京都といっても

京都市内の中央部の「本当の京都」と言われる

上京下京中京区あたりのことであり

北区などはその限りでない。

左京区は南北に長く、京大周辺は駐車場になっているが。

北の三千院のある大原などは

元々駐車場みたいな過疎地なのだから特に変わらずにいた。

あぁ、もちろん大学なども人がいなくなれば無くなるわけで

京大、同志社、立命館など全ての大学は滋賀に移転した。


 で、中途半端な北区である。

もちろん観光地もあるはあるが。

もひとつパッとしない。

いやもちろん金閣寺や上賀茂神社など超プレミアムな観光地はある。

おっと、龍安寺、下鴨神社は北区ではない!

ゆめゆめ間違えることなかれ!


 そんな感じで京都市中央部のドーナツ化現象、

駐車場化現象。

亀のマークのコインパーキングが跋扈。

住民がいなくなればスーパーマーケット、本屋、床屋、

老人ホーム、病院、外食店、郵便局、喫茶店までも

あらゆる市民サービスが撤退してゆく。


 なんということだ。

もちろん観光客の為のハリボテの、

家の前面だけ建物の形になっている通りはしっかりとしつらえてある。

観光面ではパーフェクトなのだ。

そして京都の観光地といえばそのほとんどが寺社仏閣!

京都は坊主が支配する世と成り果てた。

醍醐寺が宇宙寺を造るのだから、

京都を支配するなど造作もないことだ。

いたしかたあるまい。


 で、だ。

中心部はそんなことになってしまったものの、

北区には少なくなったとは言えまだまだ住民はいる。

しかし、バラバラに穴だらけの虫食い状態では住みにくい。

おばあちゃんがカートを押して遠くのスーパーに行くのは困難なのだ。

あぁ、もちろんバスも観光地にしか行かない。

それ以外の路線は全て廃線となっている。


 なので集まろう。

集まって暮らそうと考えた。

集まって暮らし、

そこに生活の全てを集約する。

駐車場と化した京都で生き残るにはそれしかなかった。

しかし、それは一体具体的にはどうしたらいいのか?


 答えはタワーマンションである。

北区にタワーマンションをおっ建てるのだ。


 超巨大な高層住宅。

まぁ巨大と言っても敷地面積を広く取れば

それほど高層にはならないだろう、

地上百階くらいで収まった。

そこで君は思うだろう、

景観保護条例的にそれはどうなのかと。

もちろんそれも考慮済みだ。

高層ビルの何が景観にそぐわないのかと言えば、

それはその無粋さである。

無機質な四角い塊のビルディング。

それには美しさがない。

みやびさのカケラもない。

だから許されないのだ。

その高さが問題なのではない。

風景に馴染まないのがダメなのだ。


 なので、問題解決は簡単なことだ。

外装を美しく京都に似合った

美しくみやびなものにすれば良いだけのこと。

場所は船岡山に決定した。

船岡山に城を建てることに決定した。

そう、城である。

百階建ての城を建てることにした。

船岡山に。

地域住民が住むお城、

各種生活サービスの店舗も全てそこに集約された

超巨大複合施設としてのお城である。


 内部は現代的な鉄骨やコンクリートを使った建築で、

普通の住宅である。

住みやすい。

重要なのは見た目の外部である。

そこは徹底して本当の城としての再現がなされた。

もちろん木造の木組だし釘はいっさい使わない。

漆塗りであり、

金箔をほどこされ、

細部の彫刻も作り込まれた。


 さぁ、そうなると蘇る。

そんな面白そうな仕事は俺にやらせろと、

京都の職人達がわらわらと集まって来た。

京都希代の大事業となる。

 

 トンテンカーン、トンテンカーン。

やれ、やっとこどっこいホイサッサー。

はぁ、ドンドコ、ドンドコ、ヤンヤンヤーン!


 京都船岡山城の完成である。


 京都の八十%は駐車場に成り果ててしまったが、

京都人の魂は滅びぬ。

歴史は今もなお積み上げられてゆくものだ。

その城は美しくそびえ立ち、

なんとも言えぬ神々しさを持ってそこに鎮座した。

人の心は平穏を取り戻し、

安寧の生活を送ることができた。


 もちろんそれは京都市内各地で模倣され、

様々な巨大建築が建てられた。

西京区では五重塔に模した八十重塔、

八十階建ての塔型住居が建設されたし。

南区では巨大な龍を模したコロニー型住居。

北の果て大原では巨大な仏像型の住居も建設された。

京都御所あたりからでも北の山の向こうに

巨大大仏の頭がニョッキリ顔を出しているのは

なかなかおもむきがあるものだ。


 しかし賢明な諸君はお気づきだと思うが。

そうやって作られた見目麗しい巨大集合住宅は

そのまま京都の新しい観光地になった。

そう、京都の観光化に拍車をかけたのである。

駐車場はますます増える。

リニアモーターカーは京都には来ない!

 

 いったいどうしたものか、

と悩んでいたところ時代の転換期が訪れる。

科学的大発明の大躍進。

物質の瞬間移動装置が発表された。

これは物質を遠い場所に瞬間的に移動させることのできる装置。

つまりはドラえもんの「どこでもドア」ってわけだ。

その新しい発明の基礎化学の分析はあれよあれよと進んでゆき、

物質転送の理論は安定したシステムとして確立された。

つまり人間自体の移動も簡単に安全に行うことが可能となったのだ。


 どこにでも瞬間的に移動できる世界。

観光地までは一瞬だ。

まぁ、旅情を楽しむってこともあるにはあるが、

多くの人はその移動の恩恵を享受した。

そうするとどうなるか、

乗り物に乗って移動することが減ってくる。

完全になくなりはしないが、

その数はぐんと減る。

もちろん車も少なくなる、

バスも少なくなる。

駐車場なんかも少なくていい。

そして八十%が駐車場になった京都である。

その駐車場は不要だ。

利益を出さなくなった駐車場は閉鎖される。

そしてそこには住宅が建てられた。


 回り回って京都市内に住宅が増え始めた。

住宅が増えたということは人が増えたということである。

瞬間移動装置によって移動が無制限に自由になった世界で、

人はどこに住むのか?

都会に疲れた人が田舎に住む、

ってのもあるが田舎は不便なのだ。

そこでちょうど良い場所が京都のような観光地だった。

都会でもなく田舎でもない。

曖昧な塩梅がとてもグッドな住み心地。


 瞬く間に京都の人口は増えた。

まぁ、戻ったという感じか。

人が増えれば店も増える。

大学も戻って来た。

あの頃の活気が蘇る。


 この発展の肝要な部分はそれを成したのが物質転送装置だということ。

つまりは科学分野への投資は怠ってはならない。

本当に将来何が必要かなんては人間如きに分かるわけはないのだから。


 今年は五十年ぶりに祇園祭が復活した。




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